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東京地方裁判所 平成6年(ワ)12800号 判決 1995年12月07日

原告

A

右訴訟代理人弁護士

小澤徹夫

浅尾伸

被告

B

右代表者代表取締役

林富雄

右訴訟代理人弁護士

河合弘之

西村國彦

野中信敬

千原曜

原口健

野間自子

久保田理子

松井清隆

本山信二郎

清水三七雄

河野弘香

船橋茂紀

木下直樹

主文

一  被告は原告に対し、金二五一五万円及びこれに対する平成六年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

主文同旨の判決及び仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  被告は、別紙目録記載のゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)の開発を企図している会社である。

2  原告は平成三年三月二六日に被告との間で、本件ゴルフ場に個人正会員としての入会契約(以下「本件入会契約」という。)を締結し、同年四月三〇日までの間に合計金二五一五万円(入会金五〇〇万円、預託金二〇〇〇万円、消費税一五万円)を支払った。

3  本件ゴルフ場は平成四年一〇月開場の約定であったが、平成六年四月に至るまで開場していない(本件口頭弁論終結時に至るまで開場していない。)。

4  原告は平成六年四月二七日に被告に到達した内容証明郵便によって履行遅滞に基づき本件契約を解除する旨の意思表示をした。

5  よって、原告は被告に対し、解除に基づく原状回復請求に基づき、金二五一五万円及びこれに対する解除の日の翌日である平成六年四月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  原告の請求原因1、2は認める。

2  同3のうち本件ゴルフ場が平成四年一〇月開場の約定であっったことは否認する。開場の「期限」ではなく「予定」であったにすぎない。その余は認める。

3  同4は認める。

三  被告の主張

1  被告は本件ゴルフ場の会員に対し、被告の関係する他のゴルフ場を各コースの会員と全く同等の扱い及び料金での利用の機会を提供してきた。

未完成のゴルフ場の施設利用権の場合、当該ゴルフ場と同等の質のゴルフ場、同様の場所的位置にあるゴルフ場でプレーできるのであれば、会員の合理的意思に合致すると考えられるから、被告としては債務の本旨に従った履行をしている。

したがって、被告に債務不履行はない。

2  ゴルフ場の開発について合理的な期間を予測することは困難である。なぜならば、国や地方公共団体はゴルフ場開発に関し、その計画段階から無数の事前審査や許認可の取得を要求しており、これらには専門的な調査や莫大な資料を要するばかりでなく、それぞれに複雑な利害や利権もからんでいることは周知の事実である。また、許認可の取得後の建設工事の段階でも各地方自治体による法律に基づかない要綱行政という形式での行政的規制(行政指導)が繰り広げられ、本来ゴルフ場建設に投入されるべき時間・労力・費用が行政的規制に対応するために費やされているというのが実態である。したがって、本件の場合もゴルフ場の開場が本件程度遅延したからといって債務の履行遅滞ということはできない。

3  預託金会員制のゴルフクラブの場合、口頭弁論終結時を基準として近い将来確実な開場見込みがある限り、民法五四四条(解除権の不可分性)の類推適用により各会員による個別解除が制限されると解すべきである。

なぜならば、かかる特定の会員との関係で契約解除を認めた場合には会員からの入会金及び預託金をその事業資金の主要な財源としているゴルフ場開発事業会社にとっては直ちに解体(破産)を宣告されるということを意味するのであって、結局、他のすべての会員との関係でも契約解除を認めることになるところ、近い将来確実な開場見込みがある場合にまで安易に解除を認めることは、みすみす近い将来に正式開場することがわかっているゴルフ場をあえて解体、倒産させ、その結果多数の会員の有する会員権を紙切れにしてしまうことを容認することを意味するのであり、むしろ、会員からの契約解除の主張を制限することのほうが原告をはじめとする多数の会員の権利保護につながるからである。

4  被告は平成二年夏から初秋にかけて本件ゴルフ場の募集計画を最終的に確定したが、当時の諸状況からすると、被告が本件ゴルフ場の募集予定会員数、募集金額、開場予定時期等の決定に際して、その後のバブル経済の崩壊並びにゴルフ会員権相場の暴落と長期低迷という経済動向を事前に予見することはできなかった。そして、この経済情勢の変動によって平成三年下期以降本件ゴルフ場の会員募集が極端に不振となった結果本件ゴルフ場も資金調達が遅れ、工事代金の支払遅延等の事情によって本件ゴルフ場開発計画の遂行が停滞する結果となった。したがって、右経済情勢の変動はゴルフ会員権契約の基本的前提事情に重大な変化をもたらしたものと解すべきである。

四  被告の主張に対する原告の認否被告の主張はすべて争う。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1(被告の地位)、同2(本件入会契約の成立)は当事者間に争いがない。

請求原因3(本件ゴルフ場の開場時期に関する約定)についてみるに、証拠(甲三、四)及び弁論の全趣旨によれば、被告は本件ゴルフ場の開場予定を平成四年一〇月と明示して原告との間の本件入会契約を締結したことが認められる。

右の「開場予定」は、一般的な用語法によれば、確定的な期限を意味するものではないが、当然、社会通念上平成四年一〇月とさほど異ならない時期に本件ゴルフ場が開場することが本件入会契約においては前提とされていたとみるべきであって、右契約においては本件ゴルフ場の開場時期については平成四年一〇月とさほど異ならない時期という確定期限が存在したというべきである。

そして、本件ゴルフ場が、原告が本件入会契約の解除の意思表示をなした時点(平成六年四月であることに当事者間に争いがなく、その時点で被告の開場予定から既に約一年半経過している。)及び本件口頭弁論終結の時点において開場していない事実に鑑みれば、遅くとも原告が本件入会契約の解除の意思表示をなした時点においては被告は本件ゴルフ場の開場について履行遅滞に陥っており、仮に催告をしたとしても早急に履行遅滞を解消しうる状態にはなかったものといえる。

このように解除の意思表示の時点では、本件ゴルフ場を右の時点から近い時期に開場する見込みがなかったのであるから、原告は履行の催告をすることなく、本件入会契約を有効に解除することができるものといえる。

二  被告の主張に対する当裁判所の判断

1  証拠(乙一一ないし一四、三三、証人吉澤信孝)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件ゴルフ場の会員に他の比較的上質の三つのゴルフ場の利用ができるように手当てをしており、そのことは本件ゴルフ場の会員の本件ゴルフ場を利用できないことによる損失等を補う措置として、債務者である被告の誠意を示すものと評価されよう。

しかしながら、本件入会契約は特定のゴルフ場についての入会契約なのであって、そこに代替性がないことはいうまでもなく、他のゴルフ場の利用を認めてもおよそ債務の本旨に従った履行をしたことにはならないものである。

2  次に、本件ゴルフ場の工事遅延の理由として被告は、ゴルフ場用地の予想外の地質上の問題、進入道路の予定外の変更の問題、それに伴う様々な行政指導の存在をあげている。

たしかに、証拠(乙一六ないし二八、三〇ないし三三、証人吉澤信孝)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフ場は工事過程において被告の主張するような地質上の問題や進入道路の変更の問題が生じたこと、それらが工事遅延の一因となったこと、これに対し、被告が工事の遅延を最小限に止めるべく努めたことが認められる。

しかしながら、証拠(乙三三、証人吉澤信孝)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフ場の開場遅延の主たる要因は、いわゆるバブルの崩壊による経済事情の変動及び会員権の新規募集の不振、ゴルフ場建築資金の不足にあったことが認められる。

経済事情の変動も、当事者が予測することが困難な程度のものであり、かつ、そのような変動に対して事前の防止策を採ることが著しく困難なときには、事情変更の原則等により、開場時期の明示があってもゴルフ場の開場遅延をもって直ちに債務不履行であるということができない場合もあることは否定できない。

もっとも、仮に、資金の大半を、募集した会員の預託金に依存して、ゴルフ場敷地の買収、ゴルフ場施設の建設を企図した場合であれば、一旦、見込みがはずれ、資金計画に蹉跌が生じれば、たちまちのうちに資金難に陥り、ゴルフ場事業は頓挫することになることは経験則上明らかである。

被告は、ゴルフ場事業が巨額の資金投入を必要とする事業であり、多額の資金負担に耐えられるからこそ、ゴルフ場事業に参入したのであろうし、また、経済事情の変動に備えて資金の手当てをしておくことも可能であったのであるから、いわゆるバブルの崩壊による経済事情の変動を自己に有利な事情として安易に援用すべきではない。本件においては、開場予定から三年近くもの年数が経過しており、社会通念上相当として是認される限度を超えており、個々の会員に開場遅延の犠牲を強いるのは相当ではないといえる。

3  ゴルフ場の開場時期の予測が一般的に困難であることについては、経験則上肯定できるものの、仮に年単位での予測も困難であるとまでいうのであれば、開場時期を明示してゴルフ会員権の募集をすべきではないといえる。開場時期の予測困難性は、社会通念上相当として是認される程度の遅延を許容するにすぎない。開場時期の予測困難性をもって、ゴルフ場の開場の著しい遅延を正当化する理由とはなしえないといえる。

4 解除権の不可分性の主張については、多数の会員の存在するゴルフ場で解除権を不可分的に行使しなければならないとすると、事実上解除が不可能となること、また、会員相互間には、解除権を不可分的に行使しなければならないような人的関係も認められないことから、右主張は採用できない。

会員募集が行き詰まった場合であっても、ゴルフ場の新規事業に参入する以上、次善の策が構じられているのが通常であり、被告において倒産の具体的危険性を明確に立証しない限り、被告が主張するような解除権の制限の主張は認められないものといえる。

三  よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。なお、仮執行宣言については相当でないのでこれを付さないこととする。

(裁判官小林元二)

別紙目録

名称 某

会員の種別 個人・正会員

計画地 某

開発面積 一〇八万七四二八平方メートル

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